犬にチョコレートを与えると中毒に陥るというのは有名な話ですが、具体的にはチョコレートに含まれる「テオブロミン」や「カフェイン」が犬に悪影響を与える成分となっています。
本記事では海外の情報も交えながら、犬のチョコレート中毒について詳しく解説していきたいと思います。
もくじ
犬に悪影響を与えるテオブロミン
チョコレートやココアに含まれる苦味の正体は「テオブロミン」や「カフェイン」と呼ばれる成分で、このテオブロミンこそが犬に悪影響を与える成分となっています。
テオブロミンは「メチルキサンチン類」と呼ばれる苦味成分を特徴とした成分の一種で、チョコレートの原料となるカカオのほか、「マテ茶」や「ガラナ」「コーラ」にも含まれます。
また、カフェインを含むコーヒーや紅茶、緑茶も、犬にとっては危険な食べ物・飲み物となります。
- テオブロミン(カカオに多く含まれる)
- カフェイン(コーヒーに多く含まれる)
- テオフィリン(お茶に多く含まれる)
テオブロミンやカフェインは犬にとって少量であっても悪影響のある成分。
犬の体重1kgあたり20mgのメチルキサンチン類を摂取するだけで、下痢や嘔吐といった中毒症状を引き起こす可能性があります。
※1 本記事での「メチルキサンチン類」はテオブロミンやカフェインといった、チョコレート中毒を引き起こすメチルキサンチン類の事を指しています。
犬のチョコレート中毒と症状について
犬のチョコレート中毒を引き起こす、体重1kgあたりのメチルキサンチン摂取量は以下の通り。
なお、あくまでも下記は目安となり、犬の個体差によってテオブロミンやカフェインによる感受性は異なります。
また、犬が心臓病や高齢犬である場合には、下記の摂取量にかかわらず突然死してしまう可能性が高いこともわかっています。
20mg〜 | 嘔吐や下痢、排尿の増加 |
---|---|
40mg〜 | 心毒性作用、心拍数の増加、呼吸が荒くなる |
60mg〜 | 痙攣、発作 |
100mg〜 | 心不全、昏睡状態 |
チョコレート中毒の症状が現れるのは6時間後〜
犬のチョコレート中毒の症状が現れ始めるのは6時間〜12時間以内となっており、中毒症状は最大で72時間ほど続く場合があります。初期症状では、
- 多飲・多尿
- 嘔吐
- 下痢
- 落ち着かなくなる
といった症状がみられるようになり、
多動→多尿→運動失調→硬直→振戦→発作
といったように、症状が悪い方に変化していく場合もありますので、チョコレートの誤食後、24時間以内は症状の変化に注意が必要です。
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犬がチョコレートを誤食した場合の致死量とは
犬がメチルキサンチンを摂取してしまった場合のLD50(半数致死量)は、体重1kgあたり100mg〜200mgという報告があります。
The LD50 of both caffeine and theobromine is reportedly 100–200 mg/kg,
Merck Veterinary Manual – Chocolateより
(訳)カフェインとテオブロミンの両方のLD50は100〜200mg/kgと報告されています。
個体差によるところもありますが、1kgあたり100mg前後のカフェイン、もしくはテオブロミンを摂取してしまうとかなり危険な状態と言えるでしょう。
例えば体重4kgの小型犬の場合、80mg前後のメチルキサンチンを摂取してしまうと嘔吐や下痢と言った中毒症状が、200mgを超えてしまうと不整脈や心不全といった重篤な状態に陥ることが予想されます。
メチルキサンチン総量で考える事が大切
半数致死量を表すLD50の目安は100mg〜200mg/kgですので、4kgの小型犬の場合はテオブロミン、もしくはカフェインを400mg〜800mg摂取してしまうと、命を落とす確率が50/50ということになります。
あくまでもこれらの数値はテオブロミンやカフェインを始めとしたメチルキサンチンの摂取量であり、「チョコレート」の摂取量ではありません。
つまり、チョコレート1g = メチルキサンチン1gではないという事です。
では実際に、チョコレートに含まれるテオブロミンやカフェインの含有量を調べるにはどうしたら良いのでしょうか。
犬に危険が及ぶチョコレートの量は?
チョコレートにテオブロミンが含まれていると言っても、テオブロミンの含有量はカカオ豆によるばらつきや、製品によっても異なります。
また、実際にチョコレートにどのくらいのテオブロミンが含まれているのかは、現時点では製品に記載されていることもないため、把握することが難しいです。
そこで、参考として厚生労働省から2008年に発表された「高カカオをうたったチョコレート(結果報告)」を参考にしていきたいと思います。
この報告書では、販売されているチョコレート(2008年時点で販売されていた)15種が調査対象になっており、テオブロミンやカフェインの100gあたりの含有量も調査されています。
テオブロミン | カフェイン | カカオ分の割合 | |
---|---|---|---|
明治製菓 チョコレート効果 板カカオ99% |
1100mg | 120mg | 99% |
明治製菓 チョコレート効果 板カカオ86% |
990mg | 93mg | 86% |
森永 カレ・ド・ショコラ [カカオ70] |
610mg | 110mg | 70% |
ロッテ カカオの恵み 〈88%CACAO〉ドミニカブレンド |
800mg | 84mg | 88% |
ロッテ カカオの恵み 〈77%CACAO〉メキシコブレンド |
710mg | 68mg | 77% |
プーラン 1848 ノアユーテム86% (原産国名:フランス) |
810mg | 85mg | 86% |
プーラン 1848 ノア76% (原産国名:フランス) |
580mg | 84mg | 76% |
コートドール・センセーション ブルート 86%カカオ (原産国名:ベルギー) |
720mg | 91mg | 86% |
コートドール・センセーション インテンス 70%カカオ (原産国名:ベルギー) |
580mg | 81mg | 70% |
ザロッティ サント・ドミンゴ85% (原産国名:ドイツ) |
820mg | 110mg | 85% |
リンツ・チョコレート エクセレンス 99%カカオ (原産国名:フランス) |
1100mg | 98mg | 99% |
リンツ・チョコレート エクセレンス 85%カカオ (原産国名:フランス) |
840mg | 84mg | 85% |
明治 ミルクチョコレート | 250mg | 25mg | 36% |
森永 ミルクチョコレート | 270mg | 36mg | 41% |
ロッテ ガーナミルク | 220mg | 28mg | 33% |
チョコレートによって大きく異なるテオブロミン含有量
私も大好きなロッテの「ガーナミルクチョコレート」を例にとってみると、220mg/100gのテオブロミンが含まれており、カフェインの含有量は28mg/100gとなっています。
ガーナミルクチョコレートの内容量は50gですので、板チョコ一枚あたりのメチルキサンチン濃度は下記の通り。
テオブロミン含有量 | 約110mg (1gあたり2.2mg) |
カフェイン含有量 | 約14mg (1gあたり0.28mg) |
この計算で行くと、4kgの小型犬の場合はガーナミルクチョコレートを約6〜7割(約33g)ほど食べてしまうと、中毒症状が引き起こされる計算になります。
33g中にはテオブロミンが72.6mg、カフェインが9.2mg含まれるので、これを合計したメチルキサンチン濃度の合計が81.8mgという計算となります。
99%カカオの場合は更に深刻に
100gあたりのテオブロミン含有量が1100mg、カフェイン含有量が98mgとこの調査結果でも最も多いグループだったのが、「リンツ チョコレート エクセレンス 99%カカオ」です。
製品内容量が50gですので、板チョコ1枚あたりのメチルキサンチン濃度は下記の通り。
テオブロミン含有量 | 550mg (1gあたり11mg) |
カフェイン含有量 | 49mg (1gあたり0.98mg) |
これを4kgの小型犬で計算すると、メチルキサンチン濃度が80mg(テオブロミン:73.7mg、カフェイン:6.57mg、合計で80.27mg)を超える6.7gが中毒症状を引き起こすボーダーラインとなります。
カカオの量が多い製品のほうがより危険度は高く、4kgの小型犬では約7g程度を摂取してしまうだけで、深刻な中毒症状が現れることが予想されます。
カカオはメチルキサンチン濃度が高い
上記で説明してきたとおり、カカオの含有量が高いとテオブロミンやカフェインの含有量も多く、メチルキサンチン濃度が高いということがわかりました。
メチルキサンチン類の特徴となるのは「苦味」であることを説明してきましたが、私達が食べて苦いと感じるものほど、危険度は高いと認識して間違いないでしょう。
逆にガーナミルクチョコレートのように甘いチョコレートであれば、メチルキサンチン濃度も比較的低いわけですが、結局の所、危険であることに違いはありません。
犬にとって特に危険なのは「ココア」
チョコレート以外にもテオブロミンやカフェインを多く含む食品に挙げられるのが「ココア」です。
メーカーや製品によっても異なりますが、一般的な「ココアパウダー(脂肪23%)」を例に取ると5g中にテオブロミンが105mg、カフェインが7mg含まれるようです。
原材料:砂糖、ココアパウダー(ココアバター22~24%)、ぶどう糖、脱脂粉乳、乳糖、クリーミングパウダー、麦芽糖、全粉乳、カカオマス、食塩/香料、pH調整剤、乳化剤
先程紹介したカカオ99%のチョコレートでも、1gあたりのテオブロミンが11mg、カフェインが0.98mgですので、ココアパウダーがいかにメチルキサンチン濃度の高いものかがわかります。
ココアパウダーの場合、わずか3.6gでメチルキサンチン濃度が80mgを超える計算となります。
LD50(半数致死量)では体重1kgあたり100mg〜という数値になりますので、4kgの犬の場合にはわずか4.5gのココアパウダーを摂取することで、命の危険を脅かすレベルとなります。
ホワイトチョコなら犬も大丈夫?
チョコレートの中でも、実は「ホワイトチョコレート」については「ココアパウダー」を使用せずに作られるため、テオブロミンの含有量も限りなく少ない事が挙げられます。
100gあたりのホワイトチョコレートでは、テオブロミンの含有量が0.22mg、カフェインの含有量が0.74mgとなり、メチルキサンチンの総量も0.96mgとなります。
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犬がチョコレートを食べてしまった時は?
犬がチョコレートを食べてしまった場合、たとえ少量であっても動物病院で受診するのが一番安全です。
また、どのチョコレートをどれだけ食べたのか、もしわかればいつ食べたのかも把握しておくとより良いでしょう。
これまでメチルキサンチンについての悪影響について解説してきましたが、上記での目安量はあくまでも一般的な目安です。
愛犬がどれだけメチルキサンチン類に対しての感受性が高いのかはわかりません。
その例の一つとして私の愛犬の経験をご紹介したいと思います。
2枚の「白い風船」でもチョコレート中毒に
ここで私の経験をご紹介しますが、4kgの愛犬ビビアン(パピヨン)が昔、お菓子の「白い風船」を2枚食べてしまったことがありました。
幸いなことにビビアンの命に別状はありませんでしたが、4日ほど水下痢が収まらず、便が完全に安定するまでには1週間ほどかかった覚えがあります。
原材料:油脂加工品(砂糖、植物油脂、ココアパウダー、乳糖、全粉乳、カカオマス)、うるち米(米国産)、でん粉、植物油脂、砂糖、食塩、植物性乳酸菌末(殺菌)、貝カルシウム、乳化剤(大豆由来)、香料、酸化防止剤(ビタミンE)
今回、白い風船の1枚あたりのメチルキサンチン濃度を計算することはできませんでした。
ただ、ココアパウダーとカカオマスが使用されていますので、完全にチョコレート中毒であったことがわかります。
少量のチョコでも感受性が高ければ油断はできません
白い風船を食べたことがある方ならわかるかと思いますが、せんべいの中に入っているチョコレートの量はかなり少量です。(そこまでビターではないチョコレートです)
あの量でもビビアンは下痢や嘔吐の症状が酷かったので、メチルキサンチンに対しての感受性は高いのかもしれません。
また、白い風船は個包装になっているので大丈夫かと油断していました。
この教訓から、
- 個包装のお菓子でも油断してはいけないということ
- 少量のチョコでも中毒症状が現れる場合もある
を学んだのでありました・・・
安易に考えるのは危険です!
犬の誤飲・誤食によって引き起こされるチョコレート中毒ですが、私達の身の回りにはたくさんのチョコレート菓子がありますので、いつ起きてもおかしくはないもののひとつです。
特に小さなお子様がいる家庭は注意しなければなりませんね。
また今回、記事の参考にしていたのは海外の情報でしたが、日本のサイトで「5kgの犬でミルクチョコレート5枚で中毒症状」と説明しているサイトもありました。
完全に致死量レベルですので、こうした情報にも十分に注意しなければなりません。
愛犬が摂取したようであれば、どんな量でも病院に行くのが最も安全です!
【参照】
- AKC – What to Do if Your Dog Eats Chocolate
- MERCK MANUAL Veterinary Manual – Chocolate
- petMD – What Makes Chocolate Toxic to Dogs
- 日本チョコレート・ココア協会
- 厚生労働省 – 高カカオをうたったチョコレート(結果報告)
- 百珈苑 – カフェイン(メチルキサンチン類)