数年前から日本では「マダニ」による被害が増加しており、夏が近くなるとニュースに取り上げられる機会も増えてきています。
マダニは「暖かい場所にいる」というイメージも強いですが、北海道でも被害は増加傾向に。
そこで今回は、北海道におけるマダニの被害と、マダニが引き起こす感染症について解説していきたいと思います。
<2021/04/16>
新たな情報も出てきているので、記事の内容を一部修正致しました!
もくじ
北海道でも「マダニ」の被害に注意!
マダニと言えば本州での出来事のように感じますが、北海道内でもマダニによる被害は発生しているため、決して油断はできない状況になっています。
マダニは森林など自然環境が整っている場所を好み、北海道では鹿が生息する場所にマダニも多く生息している可能性が高いです。
ただし、市街地においても「公園」や「庭」「畑」「あぜ道」など、自然がある場所にはマダニが生息している可能性も。
草むらのあるドッグランなども注意が必要となります。
マダニの活動時期
基本的には春から秋にかけて活発に活動し始めるマダニですが、実は冬にも活動する種類がいるのだとか。
マダニは夏に活動するイメージが強いですが、冬も油断できないということです。
また、マダニに噛まれたことで発症する「SFTS(重症熱性血小板減少症候群)」の患者は5月〜8月にかけて一気に増加することでも知られますが、近年は感染例も増加傾向に。
マダニは暖かくなると活動的になりますが、北海道でもマダニの被害が多発している理由には、温暖化の影響が関係しているのかも知れません。
温暖化で北海道の気温も上昇
年々暖かくなってきているように感じる北海道の気温。
札幌管区気象台の調査によると、
- 札幌の平均気温:2.4℃の上昇
- 旭川の平均気温:1.9℃の上昇
- 函館の平均気温:1.6℃の上昇
といったデータが出ており、北海道の主要7地点の平均気温は過去100年間で約1.6℃も上昇しているそうです。
因みに、日本平均では1.2℃の上昇。
北海道の温暖化は、日本平均よりも高い上昇率であることがわかります。
マダニが活発に動き出す気温は、15℃が目安。
こうした温暖化の影響とマダニの関係がイコールになるかはわかっていはいませんが、少なからず影響は与えているのかもしれません。
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マダニが媒介する感染症「SFTS」とは
「SFTS(Severe fever with thrombocytopenia syndrome )」とは、中国で2011年に報告されたダニ媒介性感染症で、「重症熱性血小板減少症候群」とも呼ばれる感染症です。
それまでは主に中国と韓国で感染例が報告されていましたが、日本で初めて人への「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」が確認されたのが2013年1月のこと。
その後、猫から人への媒介や、飼い犬から人への媒介も認められるようになり、平成29年10月には国内で初となるイヌーヒト感染が確認されました。
北海道でも油断はできない
2016年11月時点で全国で226症例(内、52人の方が死亡)、2018年2月の時点では319症例(内、60人の方が死亡)と、統計でも着々と感染が拡がっていっているのがわかります。
北海道内においてはSFTSの感染は確認されていませんが、北海道でもマダニによる被害は多数確認されているため、いつ北海道でSFTSが確認されてもおかしくはない状況です。
今後も増え続けていく可能性は高いですが、新たに「エゾウイルス」が発見されるなど、マダニによる感染症はSFTSやダニ媒介性感染症に限らず注意が必要です。
マダニが媒介する”ウイルス感染症”
世界では年間に1万〜1万5千もの発生件数が確認されている「ダニ媒介性脳炎」。
主にげっ歯類とマダニが媒介する「フラビウイルス」と呼ばれるウイルスに感染することで発症するダニ媒介性脳炎は「フラビウイルス感染症」とも呼ばれます。
北海道内のダニ媒介性脳炎の被害は執筆時点で5件確認されており、最初に確認された被害は平成5年(渡島地方)のことでした。
- 平成5年(渡島)
- 平成28年8月(札幌)
- 平成29年7月(函館)
- 平成29年8月(札幌)
- 平成30年5月(旭川)
最初の確認以降、平成28年からは感染被害が近年で連発していることがわかります。
感染確認エリアも道南から道央までと広域に
ダニ媒介性脳炎の感染が確認されたエリアに関しても、函館〜札幌、旭川間という広さですので、道北とまではいかなくとも道南・道央は特に注意が必要になってくるでしょう。
このほか、感染したヤギ・羊などから搾取された未殺菌乳を飲んだことでも感染が確認された例も。
こうした機会はあまりないかと思いますが、覚えておいた方がよいですね。
なおフラビウイルスは、人から人へと直接感染することはありませんが、輸血や母乳を介して感染する場合があります。
ダニ媒介性脳炎の詳細情報
北海道内での感染件数 | 5件(2018年5月時点) |
---|---|
感染が報告されたエリア | 札幌、函館、渡島地方 |
感染経路 | ウイルス保有のマダニによる吸血 |
潜伏期間 | 2日〜28日(通常で1週間〜2週間) |
初期症状 | 発熱、頭痛、筋肉痛、倦怠感 |
治療方法 | 症状に応じた対症療法 |
予防接種 | 16歳以上の希望者を対象とした予防接種があります。(有料) |
世界に広がるフラビウイルスの驚異
世界で毎年15,000例もの感染が確認されるダニ媒介性脳炎は、アジア圏以外にもヨーロッパでも感染が確認されています。
平成13年にはオーストリアに滞在していた日本人が、ダニ媒介性脳炎で命を落としてしまった例も。
地域によって微妙に症状や致死率も異なるようですので、以下でご紹介しておきます。
【中央ヨーロッパ型脳炎 – フラビウイルス】
頭痛、発熱、筋肉痛など、インフルエンザに似た症状を発症し、そのうち約30%は髄膜脳炎、痙攣、目眩、知覚異常など重症化するケースも。致死率は1〜2%ほど。
【ロシア春夏脳炎 – フラビウイルス】
頭痛、発熱、悪心といった症状が見られたのち、髄膜脳炎へと進行。致死率は20%と高く、回復しても神経に後遺症が残る場合も。
新たに発見された「オルソナイロウイルス」
2020年1月、マダニによる虫刺咬で新たなオルソナイロウイルス「エゾウイルス(Yezo virus:YEZV)」が発見されました。
新たに見つかったエゾウイルスは、北海道の道央圏の山林で山菜採りを行っていた男性が、発熱と下肢の痛みによって歩行困難になり、診察・入院をしたことで発覚。
ウイルス性熱性疾患を発症し、症状はSFTSと似た症状であったことがわかっています。
現在、男性は回復し、後遺症なども特には無いようですが、症例としては初となるため、犬や猫にも感染が広がるかどうかはまだはっきりと分かってはいません。
マダニによって媒介するウイルス感染症に新たな種類が発見されたため、より警戒を強めなければならない事態になってきています。
マダニが媒介する”細菌感染症”
「スピロヘータ感染症」は “スピロヘータ” と呼ばれる螺旋状の細菌に感染することで発症する感染症です。
スピロヘータと呼ばれる細菌には、
- トレポネーマ属(代表的な感染症:梅毒)
- ボレリア属(代表的な感染症:ライム病)
- レプトスピラ属(代表的な感染症:レプトスピラ症)
など、いくつかの種類(属)に分類、それぞれ異なる感染症を引き起こすことで知られます。
ライム病【ボレリア属】
ダーツの「的」のような紅斑が広がる「遊走性紅斑」と、インフルエンザのような症状が特徴のライム病。
重症化すると中枢神経系の症状が見られ、意識障害などのほかにも心疾患や眼症状などの症状が見られる場合も。
1999年〜2018年の20年間で国内でのライム病感染例は231例、中でも北海道が8〜9割を締めています。
また、国外では重症化して慢性疾患に陥るというケースもあり、2007年には1件の死亡例が報告されています。
北海道内での 感染件数 | 34件(2013年〜2017年) |
国内の感染 報告エリア | 北海道〜大分 (主に本州中部以北) |
感染経路 | 主にシェルツェマダニによる吸血。 |
潜伏期間 | 3日〜16週間 |
初期症状 | 特徴的な遊走性紅斑、発熱、 頭痛、筋肉痛、倦怠感 |
治療方法 | 抗菌薬による治療 |
予防接種 | なし |
回帰熱【ボレリア属】
無発熱の時期は血中からも菌が検出されず、1週間ほど経つと発熱し始め、風のような症状を引き起こす回帰熱。
脳炎や髄膜炎といった症状が見られる場合もあり、適切な治療を行わない状況下での致死率は5%未満と言われています。
新たな調査・研究の結果、1995年に北海道で発見された菌は新種のボレリア菌「ボレリア・ミヤモトイ」であることが判明。
日本ではここ数十年間、感染報告がありませんでしたが、これにより回帰熱の国内感染例は2011年以降、2名の方が回帰熱を発症していたことが判明しました。
北海道内での 感染件数 | 2件 |
国内の感染 報告エリア | なし(海外での感染) |
感染経路 | シュルツェマダニの媒介による感染、 ダニ、シラミにも媒介 |
潜伏期間 | 12日〜16日 |
初期症状 | 発熱と無発熱を繰り返し、 発熱期には頭痛や関節痛、咳など |
治療方法 | 抗菌薬による治療 |
予防接種 | なし |
北海道に生息するマダニの種類
マダニはなんと800種類以上も存在し、日本国内でも47種類以上ものマダニが生息。
マダニの生息地に関しては年々、解明されてきている部分も多く、常に新しい情報をチェックしておくことをおすすめします。
マダニ科マダニ属
- シュルツェマダニ
- 6月〜7月に被害が集中。哺乳類のほか鳥類にも寄生。「ライム病」の媒介や、「ダニ媒介性脳炎(フラビウイルス)」を媒介することで知られます。
道内のほぼ同域に生息しますが、シュルツェマダニが渡島・檜山地方に生息しているのは稀のようです。
- 6月〜7月に被害が集中。哺乳類のほか鳥類にも寄生。「ライム病」の媒介や、「ダニ媒介性脳炎(フラビウイルス)」を媒介することで知られます。
- タネガタマダニ
- シュルツェマダニの近縁種。メスが満腹に吸血した後は、なんと7mmもの大きさになるようです。
- ヤマトマダニ
- シュルツェマダニの近縁種でシュルツェマダニと同域に生息しますが、ヤマトマダニが利尻や礼文などの寒冷地に生息するのは稀とのこと。
また、これまでヤマトマダニはライム病を媒介しない種として考えられていたようですが、2014年に台湾でライム病を引き起こす細菌を持つヤマトマダニが発見されたようですので、油断は出来ません。
- シュルツェマダニの近縁種でシュルツェマダニと同域に生息しますが、ヤマトマダニが利尻や礼文などの寒冷地に生息するのは稀とのこと。
- パブロフスキーマダニ
- シベリア大陸に分布しているパブロフスキーマダニが、北海道で新たに発見されています。
マダニ科チマダニ属
- フタトゲチマダニ
- 5月〜10月に活動。「日本紅斑熱(リケッチア)」「Q熱(リケッチア)」「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」を媒介する事で知られます。
- キチマダニ
- 日本各地、ほぼ1年中活動する種で、イヌマダニとも呼ばれるのがこの種。
野うさぎに吸血するのが多く、東北地方では「野兎病」を媒介する種としても知られます。
- 日本各地、ほぼ1年中活動する種で、イヌマダニとも呼ばれるのがこの種。
マダニのライフサイクル
マダニは常に吸血を繰り返しているイメージもありませんか?実は、マダニが吸血するのは生涯で3回だけ。
マダニのライフサイクルは「幼ダニ→若ダニ→成ダニ」の3段階で成長するのですが、この3つの段階毎に1度ずつ吸血を行います。
スタートとなるのがメスから産卵された卵で、最大4,000個もの卵を地上で産むのだそうです。
その後、卵が孵化することで「幼ダニ」に。その後は、木や草に潜んで動物に寄生するタイミングを待ちます。
幼ダニ → 動物に寄生 → 吸血 → 地上に落下 → 脱皮 → 若ダニ
若ダニ、成ダニも同じサイクルで成長し、最終的にメスは成ダニになってから吸血後、地上に落下して産卵していくというライフサイクルになります。
主に鹿が寄生先に
北海道では主に鹿がマダニの寄生先となりますが、犬や猫もまた、マダニの寄生先となります。
また、犬の体へと寄生し、吸血し終わるまでには約1週間も寄生したままとなります。
マダニに噛まれたことで引き起こされる感染症の中には、人だけでなく犬も同じく感染する感染症が存在するため、注意が必要です。
北海道でのマダニ対策
具体的に北海道でマダニ対策を行う際には、どのようにしたら良いのでしょうか。
札幌市のホームページ 「ダニ媒介感染症」のページを確認すると、以下のようなアドバイスが記載されています。- 長袖、長ズボン、足を完全に覆う靴、帽子、手袋を着用
- 首にタオルを巻く等、肌の露出を少なく
- シャツの裾はズボンの中に、ズボンの裾は靴下や長靴の中へ。登山用スパッツを着用するとより効果的。
- 上着や作業着は、マダニを目視で確認しやすい明るい服がお薦め。
- 上着や作業着を脱ぐ場合は、体にマダニが付着しないように注意して脱ぐ。
- 脱いだ衣服は、家の中に持ち込まないようにする。
- 屋外活動後は入浴し、わきの下や足の付け根、手首、膝の裏、胸の下、頭部、髪の毛の中など、マダニに刺されていないかを確認。
このほか、DEET(ディート)という成分を含む虫除け剤の中には虫除けの補助的な効果もあるので、他の対策と組み合わせて対応するのが理想です。
ただし、これはあくまで「飼い主さん」のマダニ対策。
人には人の、犬には犬のマダニ対策がありますので、それぞれ対策を講じる必要があります。
「ネクスガード」など、動物病院でフィラリアやマダニ対策用の薬を購入できるので、事前対策をとるようにしましょう。
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また、以下のような犬にも使用できるスプレーなどを利用して、日頃からマダニ対策をとる癖をつけましょう。
万が一、マダニに咬まれたら?
犬を飼っている方であれば聞いたことがあるかも知れませんが、マダニに咬まれてしまった際には、自分で処理せずに早めに医療機関へ。
マダニが吸血している時は皮膚に口器(頭の部分)が刺さっている状態であるため、無理に取ろうとすると体がちぎれてしまいます。
単にちぎれるだけなら良いのですが、残った口器部分からマダニの体液が逆流し、血中に流れ込んでしまうため、大変危険です。(感染症を引き起こします)
マダニに咬まれているのを発見した際には、人も犬も関係なく、すぐに病院に行って処置してもらうようにしましょう。
【参照】
- 札幌市 – ダニ媒介感染症
- 札幌管区気象台 – 北海道の気候変化(第2版)
- NIID 国立感染症研究所 – 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
- NIID 国立感染症研究所 – マダニ対策、今できること
- NIID 国立感染症研究所 – ライム病とは
- NIID 国立感染症研究所 – 北海道における新規オルソナイロウイルス(エゾウイルス:Yezo virus)によるマダニ媒介性急性発熱性疾患の発見