熊の兄弟

絶滅寸前まで追い込まれた北海道のヒグマの歴史と新世代クマのはなし

北海道にはヒグマが生息していることは広く知られている事ですが、数年前から札幌市内でもヒグマの目撃情報が相次ぐようになってきています。

ヒグマは警戒心の強い野生動物としても知られているため、あまり人里に姿を現すことはないと考えられていますが、札幌市内の、それも車通りの激しいような場所に姿を表わす事も増えてきていますので、札幌市内だからといって油断はできなくなってきています。その原因とは一体何なのでしょうか。

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市街地に出没する現代のヒグマ

道路脇を歩く熊

札幌市内であっても南区の石山、藤野、藻岩山近郊といったエリアでは自然も多く、熊が出没するケースも割と多いエリアですが、2019年4月中旬には札幌市の清田区で熊が出没。

この近辺にはコストコがあったり、イオンがあったり、三井アウトレットパークがあったりと商業施設もかなり多いエリアで、交通量もかなり多い場所です。

清田区は札幌の中心地からはまだ遠く、札幌市と北広島市の境目に近い場所ですので自然もやや多いエリアでもありますが、ベッドタウンとして住宅地が広がる場所でもあり、人口密度も多い場所ですので、このエリアに熊が出没するのは驚きでした。

札幌市内のヒグマの目撃情報

’14 ’15 ’16 ’17 ’18
中央区 14 3 1 5 8
南区 50 70 30 96 123
西区 17 5 1 1 2
手稲区 3 3 0 3 4
清田区 4 1 1 1 0
豊平区 1 0 0 0 0
合計 89 82 33 106 137

上記の表は札幌市内でヒグマを目撃、もしくはヒグマの痕跡を発見した2014年〜2018年の情報を表にまとめたもの。

これで見てみても、2019年4月の清田区への出没はかなり稀であることがわかりますね。

札幌市を例に挙げてみましたが、北海道内の各市でも同様にクマの目撃や被害が相次いでいる状況です。

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ヒグマと人間の関わり

熊の兄弟

実は前述のように、ヒグマが市街地へと迷い込んでしまうのには理由があります。

その理由とは、現代に生きるヒグマは人に対して恐怖心が少ないということです。

北海道ではこれまでヒグマによる影響で人が犠牲になったり、農作物に被害が発生するなど、ヒグマは害獣として扱われてきました。

ヒグマによる犠牲者は1972年〜2002年までの30年間で死者17名、負傷者43名となっており、ヒグマによる農業被害は年平均で9600万円にものぼります。

こうした被害を減らすため、1962年からはヒグマの捕獲を行う「ヒグマ捕獲奨励事業」が開始され、1980年まで続けられました。

さらに1966年からはヒグマの生息数を減少させるため、冬眠中のクマや冬眠明けのクマを駆除する「春グマ駆除」が開始され、生息数を減らすことに成功します。

ヒグマは駆除対象から保護対象へ

こうして北海道内におけるヒグマ対策が取られた結果、ヒグマによる被害は大きく減らすことに繋がりましたが、同時に北海道の固有種でもあるヒグマは絶滅が危惧されるレッドリストに入ってしまうほどに生息数が激減してしまうことに。

人への被害を減らすために始められた春グマ駆除は1990年に廃止され、現在では予防駆除という形でヒグマが駆除されてはいますが(2017年の北海道内で5頭)、ヒグマに対する考え方は駆除対象から保護対象へと転換されていっています。

現在ではヒグマの生息数も徐々に回復してきており、平成2年には約6,000頭前後(推定)に数を減らしていたヒグマも、平成24年には約10,000頭前後(推定)まで生息数が回復してきています。

「新世代クマ」の時代が到来

ヒグマの保護は現在も進行中ですが、札幌市の市街地であっても平気で姿を現すクマが増えていくという新たな問題も発生してきています。

この減少は単にヒグマが増加しているという事ではなく、自然界におけるヒグマの世代交代によるものが関係してきています。

春クマ駆除の廃止から20年以上が経過した現在のクマは「新世代クマ」と呼ばれ、かつてのヒグマのように「人間=怖い」という認識を持たない熊が成長しているため、人里に出没しているわけです。

そこで現在の北海道では、下記の対策を方針として掲げています。

  • 人身事故の防止
  • 農作物等被害の予防
  • 絶滅の回避

自然とのバランスを取らなければならない非常に難しい問題ですが、大事なのはクマに対しての知識を深めていくことかもしれませんね。

2019年には残念ながら札幌市内に出没していたヒグマが駆除される事となりましたが、事前に対策を行っていても保護に結びつかないケースもあるのです。

熊の生態を知っておこう!

鮭を咥える熊

クマは肉食動物でもあり、草食動物でもある「雑食性」の動物です。

サケを捕食したり、「三毛別クマ事件」などから肉食のイメージも強いヒグマですが、実は植物もヒグマの主食となるのです。

こうしたヒグマの食性は季節や地域によっても変わりますが、春夏秋冬それぞれに主食となりうるものが変わります。

春から夏にかけての主食は植物。生息地によっても異なりますが、基本的には「フキ」や「ウド」「イラクサ」「ミズバショウ」といった植物を主食にしているんです。

あの大きな体で植物を主食としているのには驚きですね。

また春から夏にかけては農作物の被害もあることからわかるように、トウモロコシ畑などもヒグマの食物対象に。

このほか果物や実も食料にしています。

ヒグマだけでなく、エゾシカとの関わりも問題に

植物だけでは栄養不足になるため動物性タンパク質も必要としますが、魚のほかにも「アリ」や「ハチ」を動物性タンパク源として捕食することもあります。

地道に捕食し、しっかりと昆虫から動物性タンパク質を摂取しているわけです。

また、ヒグマは動物を襲うイメージがありますが、”かつて” は越冬できなかった鹿の死肉などを食物とし、生きている鹿を襲うケースもなかったようですが、現在では鹿の味を覚えたヒグマが鹿を襲って食物としているケースも増えているのだそう。

これにはエゾシカの増加という問題も絡んでおり、

人間が増えすぎた鹿を駆除
  ↓
残された鹿の死肉をヒグマが捕食
  ↓
鹿肉の味を覚える
  ↓
鹿を襲ってでも食物にしようとする

といったように、こうした部分にも人間と自然との関わりが関係しているのです。

草木を食すエゾシカの増加は自然破壊にも繋がる深刻な問題ですが、ヒグマ同様に解決に向けて行動していかなければならない、北海道の問題の一つとなっています。

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4月〜5月末までは要注意!

食事をする熊

ヒグマによる被害を減らす最善の方法は、「ヒグマに遭わないこと」です。

極論のように感じますが、残念ながらヒグマによる被害の多くはヒグマが人間に近づいているのではなく、人間が自らヒグマを呼び寄せていることに問題があります。

  • 食べ物やゴミは必ず持ち帰る
  • 一人では野山に入らない
  • 野山では音を出しながら歩く
  • 事前にヒグマの出没情報を確認する
  • 薄暗い時には行動しない
  • フンや足跡を見たら引き返す

北海道環境生活部では、上記のポイントについて提唱しています。

シーズンによってはキャンプをする方、登山をする方、山菜を採る方など、ヒグマと近づく可能性が高い場所に向かわれる方も多くなります。

上記に挙げられた最低限のポイントは守るようにし、自分の身は自分で守ることが大事になります。

特に「ゴミを持ち帰る」といった行動は、どのようなシーンにおいても当然のルールですので、必ず守るようにしましょう!

【参照】

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