家を留守にする度に「留守番させる愛犬がかわいそうだなぁ」という気持ちに襲われますが、音楽がその気持ちを少しだけ軽減させてくれるかもしれません。
音楽によるストレス軽減効果は人間にもありますが、動物に対する以下のような研究データも存在します。
- 乳牛にクラシックを聞かせる実験では、機械音(自動搾乳のノイズ)だけにさらされている乳牛よりもストレス行動の減少が認められ、より多く牛乳を生産した
- 豚の成長を比較した実験では、テンポの速い音楽は成長率を下げたのに対し、テンポが遅いソフトな音楽は成長率に影響を与えなかった
こうした効果は牛や豚だけにとどまらず、犬に対しても一定の効果が認められています。
それでは具体的に、音楽が犬に与える効果や留守番に適した音楽、適した音の聞かせ方などについて詳しく見ていきましょう。
音楽が犬に与える効果

音楽には犬をリラックスさせる効果や環境ストレスへの軽減効果も認められますが、全ての音楽ジャンルに効果が期待できるわけではありません。
例えばヒーリングミュージックにもよく使用されるクラシック音楽は、犬に対しても良い影響を与える音楽ジャンルとしても有名です。
犬とクラシック音楽との関係には様々な研究結果がありますが、ポイントを紹介すると
- 犬の心拍数を低下させ、リラックス効果をもたらす
- ストレスレベルが低下し、より落ち着いた行動が観察された
- コルチゾールレベル(ストレスホルモン)の低下が観察された
など、犬に対して良いことだらけ。
犬にとってクラシック音楽は、ストレスが多い環境下で気持ちを落ち着かせる効果があるようで、海外では動物病院や介護施設、動物シェルターといった場所での利用が検討されているようです。
犬に適した音楽のジャンルは?

犬に適した音楽のジャンルですが、情報を深掘りしていくと、どうやらクラシック音楽だけではなさそう。
- ソフトロック
- モータウン
- ポップ
- レゲエ
- クラシック
犬舎にいる犬(38匹)に、上記5ジャンルの音楽を聞かせた研究によると、クラシック音楽以外のジャンルにおいても、意外な効果が見られることがわかりました。
その効果の一つに、(研究対象の5ジャンルの)音楽がかかると横になる時間が大幅に増え、立って(起きて)いる時間が大幅に減少していたといった様子も確認されているようです。
「ソフトロック」や「レゲエ」にも意外な効果
同実験での心拍に関する調査では、最もストレス低下を示す値となったのが「ソフトロック」と「レゲエ」。
音楽が止まると吠え始め、音楽が再生されると大人しくなるといった様子も確認されたようですが、「ポップ」「クラシック」「モータウン」の順に、顕著な変化はみられなかったとのこと。
別の研究では、犬(150匹)に音楽のテンポ(BPM)が70〜80BPMおよび50〜60BPMのクラシック音楽を聞かせたところ、全ての犬に効果は見られなかったようですが、シンプルなアレンジの曲には、多くの犬にプラスの効果が見られたようです。
ソロ楽器でテンポが遅く(50〜60BPM)、アレンジもシンプルな曲では、70%の犬に落ち着きが見られるようになり、半数以上が眠りにつく、もしくは85%に穏やかな兆候が見られたようです。
人も相手の鼓動を感じると安心感を得られるのと同じく、犬の心拍数にも近い50〜80bpmといったテンポの音楽は、犬の安心感と何か関係しているのかもしれませんね。
良い効果を与えないジャンルは?
クラシック以外にも、テンポが遅めな音楽は犬に受け入れられやすい可能性がありますが、犬にもそれぞれ好みや反応が異なる可能性はあります。
これは人間も同じですよね。
イギリスの「Pooch&Mutt」というブランドの調査・研究によると、犬に最も適した“曲”の要素を、以下のように挙げています。
- 曲のテンポは95BPM(ゆっくりな歩行速度に近い)
- 音の大きさは24db(デシベル)
- エネルギーは低め
- メロディーはメランコリック
- 穏やかな音響
- ボーカル音は最小限
これらの要素を総合すると「ボーカルが最小限でゆっくりとした、静かなアコースティックソング」という結論に至ったよう。
これらに該当する曲には、以下のような曲が該当してくるみたいです。
一方、ある研究ではヘビーメタルを再生したときに犬が吠える可能性が高くなるという結果も。
犬にとってテンポの速い曲や音数の多い曲は、やはりリラックス効果を下げる可能性があるようです。
音楽を活用する時のポイント

音楽のジャンルも大事ですが、犬に対して音楽を活用する際には「音の大きさ」も重要なポイント。
前述で紹介した、犬に最適な曲の要素では「24db(デシベル)」とありましたが、この24dbがどのくらいの大きさなのがピンとくる人も多くはないと思います!
そこでまずは、犬がどのような感じで聞こえているのかを理解しておきましょう。
音の高さ・電波の特性を表すのは“周波数”でHz(ヘルツ)、騒音をはじめとする “音の大きさ”はdB(デシベル)で表されます。
犬の聴覚の特徴(音の大きさ:デシベル)
まずは比較的、馴染みのある「音の大きさ=デシベル」に関して。
デシベル数 | 環境音の例 | 犬の聞こえ方 |
---|---|---|
10 db〜 | 葉のざわめき | 快適 |
20 db〜 | 静かな寝室 | |
40 db〜 | 静かな図書館 | |
60 db〜 | 静かなオフィス | |
70 db〜 | 掃除機、車内 | 不快、ストレスに感じる |
80 db〜 | 目覚まし時計、歌声 | |
85 db〜 | 都市の交通音 | 不快であり、長時間の曝露は 聴覚にダメージを与える可能性がある |
95 db〜 | 芝刈り機の音 | |
100 db〜 | ヘッドホンでの音楽 | 非常に不快 ストレスや不安を引き起こす可能性が高い |
120 db〜 | 近くの雷鳴 | 痛みを伴うレベル。短時間でも聴覚に 深刻なダメージを与える可能性がある |
例えば、人間が「うるさいなー」と感じるのは70db辺りからとのこと。
これは犬にとっても同様の基準となりますが、犬は人間よりも優れた聴覚を持つため、私たちがうるさいと感じている以上に不快を感じていると思われます。
音量の調整
先ほど解説した、犬に最適な曲の要素では「24db」が犬にとってリラックスできる音量ですが、これは“静かな寝室”に値する音量。
テレビや音楽を流す時に、私たちが“少し音が小さいかな?”くらいの方が犬たちにとっては快適な音量なのかもしれません。
ちなみに複数の犬舎環境を比較した研究によると、継続的な騒音レベルは100 dB以上、ピーク時には約120 dBに達するとのこと。犬たちも不快な思いをしていると思われます。。。
音楽も、「歌詞が聞き取れるかな〜聞き取れないな〜」くらいの音量が良いと思われます。
留守番中でもオン・オフができる環境を
人間であれば音がうるさいな・必要ないなと感じれば、電源をOFFにすることで音のない環境を作ることができます。
一方、犬の場合は音がうるさいなと感じても、自分の意思で電源をOFFにすることができません。
可能であれば、音のない静かな空間を用意してあげるようにして、愛犬が無音で落ち着きたいタイミングに移動できるようにしておくのが理想的。
部屋を用意するのが難しい場合は、音量と再生時間を考慮して音楽を流すようにしましょう。
曲順をシャッフルして飽きさせない工夫も
別の研究では、音楽のプレイリストに変動性を持たせることが大事だと説明していました。
研究によると、7日以上同じプレイリストをかけたところ、音楽に対する効果(心理的・生理学的な面)が低下したそうです。
つまり、犬も同じ“音(音楽)”を聞き続けていると、慣れてくると言うことですね。
同じ音楽、同じ流れでかけ続けるのではなく、流れを変えたりする工夫も必要になるので、プレイリストを作成したら、シャッフル再生にするのが良いのかもしれません。
犬用の専門的な音楽やプレイリストの紹介

ここまで色々な研究結果を紹介してきましたが、海外では犬用に作られた音楽やプレイリストがあります。
ほんの一部にはなりますが、有名なものを紹介していきますので参考までにどうぞ。
Pooch&Mutt
上記でも紹介したイギリスのフードブランド「Pooch&Mutt」が提案する、犬に最適で役立つ曲を特定したプレイリスト。
- 4,000超えのいいね!
- 13の公式spotifyプレイリストからデータを収集
- 500を超える曲
- 24時間の音楽を分析
と、厳選する条件も相当なデータ量から選び抜かれたプレイリストなので、一度お試しあれ。
ちなみに我が家の愛犬「のび太くん」は、基本的に外に車が止まるとソワソワ・ワンワンしてしまいますが、こちらのプレイリストを試してみたところ、すやすや寝ている時間が長くなったように感じました。
Relax my Dog
2011年にエルサルバドルで開始された「Relax my Dog」は、政情不安から愛犬が分離不安を患ってしまった事を受け、音楽の力で愛犬の不安を和らげる事を目指したのがきっかけで始まったプロジェクト。
必要な研究費がなかったため、フィードバックを得るためにyoutubeへコンテンツをあげたところ多くのフィードバックを得ることに繋がり、現在は音楽や動画など大量のコンテンツがアップされています。
サブスクも展開しているので、深刻なダメージを受けている犬は一度、試す価値はあるかと思います。
HP:Relax my Dog
youtube:RelaxMyDog
Pet Playlist
「Pet Playlist」は音楽ストリーミング配信サービスのSpotifyが公開している、ペットのためのプレイリストを作成できるオリジナルサービスです。
いくつかの質問に回答していくと、愛犬の性格に沿ったプレイリストが作成されるので、手軽にペット用プレイリストを楽しめるのが面白いです。
監修もペット用音楽の第一人者を招いての作りになっていて、単なるお遊びではなく、有料レベルのプレイリストを作成することができます。
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まとめ:愛犬との信頼関係が大事
音楽と犬の関係、気になるポイントがたくさんありましたね。
留守番をさせるときに愛犬がかわいそうになりますが、少しでもストレスの少ない時間を過ごせるよう、音楽のちからを借りてみてはいかがでしょうか。
犬の様子を観察しながら、愛犬に合った音楽を選ぶことが大切ですので、いろんなプレイリストを試してみてください!
【参照】
- ResearchGate : (PDF)A comparison of hearing and auditory functioning between dogs and humans
- SpotOn : Does Loud Music Hurt Dog’s Ears? Is Loud Music Bad for Dogs? : SpotOn
- テクセル : 日常生活におけるさまざまな音の大きさや高さの目安を紹介
- Pooch&Mutt
- PMC : Musical Dogs : A Review of the Influence of Auditory Enrichment on Canine Health and Behavior
- Caring Hearts ANIMAL HOSPITAL : Does Music Help Dog Separation Anxiety?